【イベントレポート】2016年10月15日 第3回 無国籍ネットワーク・トークイベント「難民・国籍・アイデンティティ」

10月15日(土)に行われた第3回無国籍ネットワーク・トークイベントの様子をご報告致します。

次回は2016年11月19日(土)早稲田大学にて、精神科医 野田文隆氏による講演会「帰る国無き難民のこころ」を予定しております。詳細が決まりましたら、改めてご案内致します。

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10月15日(土)、「難民・国籍・アイデンティティ」について考えるトークイベントが早稲田大学で開催されました。当日は学生を含め22名の方が参加。無国籍ネットワーク運営委員の池辺利奈氏から、修士論文の一部である「在日ロヒンギャの民族的アイデ
ンティティの変容」と題する報告。後半は同運営委員のスティーブン・マキンタヤ氏をファシリテーターに国籍やアイデンティティについて議論するワークショップが行われました。

 

6月に行われたトークイベント に引き続き、池辺氏はさらに踏み込んで、難民と移民の定義の解説に加えアイデンティティの形成に関する理論について説明しました。それをふまえ在日ロヒンギャの心境の変化、母国においてロヒンギャであることを否定的に捉えていたものの、国外への移動を機にロヒンギャとしての意識・自信を持つようになったことなど、独自に行ったインタビューから見えてくる在日ロヒンギャのアイデンティティの変容の経緯について報告されました。また調査方法やインタビューのデータ整理や分析の方法について聞くこともでき、今後卒論を書く学生にはとても参考になったと思います。40分の報告の後、参加者からたくさんの質問がありました。「どうしてロヒンギャの研究をしようと思ったのか」、「日本に住むロヒンギャはどのような経緯できたのか」、「ミャンマーでは具体的にどのような差別を受けているのか」、「民族を分ける要因はどこにあるのか」など、活発な議論が行われました。

 

続いたワークショップでは4~5人1グループで全5チームに分かれました。マキンタヤ氏は最初に「日本国籍を持っている外国人」、この表現についてどう思うかと問いかけました。それ以外にも今回のテーマである「難民・国籍・アイデンティティ」に関連したトピックについて話し合いました。日本人としてのアイデンティティとは何か、今後日本にくる移民や難民にどう対応するのか、その長期化により国籍を与えるべきか、移民や難民の子供の教育はどうするのか、などを論点に意見交換をしました。参加者からは、「普段自分が日本人だと意識することはあまりないけれど、海外にいる時は日本人だと思うことはある」、「移民、難民、日本人関係なく子供が教育を受ける機会の平等は大事である」、「日本の教育システムは統一化されたところがあり、文化の違いにどこまで対応できるのか」「日本人と移民・難民が交流する機会の必要性」、「受け入れはだれが行うのか、それは国なのか地域なのか」、「国家にもたらす利益について考えるが故に受け入れに消極的な傾向があるのではないか」と様々な意見や疑問がでました。議論が盛り上がったため、2時間を予定していたイベントもあっという間に時間が過ぎ30分の延長で終えました。

 

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かつて無国籍であった方や二重国籍の方もそれを他の参加者に共有して、とてもオープンに語り合える場であったと思います。出席者へのアンケートでは、「難しい話題ではあったが、とても勉強になった」などの感想が寄せられました。議論を通して、今後日本は排外主義をどのように解決していくのかと、新たに浮上した課題もあり、これからもみなさんと一緒に考えていきたいです。

 

無国籍ネットワークユース代表

東 美華

 

【イベントレポート】2016年9月7日〜13日 タイスタディツアー(英語版)

2016年9月7日〜13日にタイスタディツアーが開催されました。

ツアーに参加した、無国籍ネットワークユースのクリスティンさんのレポートをご紹介いたします。

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Study Tour to Thailand

Sep. 7th – 13th Chiang Mai and Chiang Rai

Stateless Network Youth & Waseda Univ. Chen Seminar

Chae won “Christine” Lee

Purpose

Personally, the primary goal of the study tour was to meet and conduct the interview with stateless and nationalityless people of Thailand, and the purpose was well achieved. Also, by listening to lectures and conducting interviews, I was able to learn more about refugees and Mountain People of Thailand and how they become stateless and how they acquire Thai nationality. Overall, the tour was fruitful and meaningful.

Homestay at Mae Kampong (Sep. 8th-9th)

thai-study-tour               Our team have stayed in a local household at village Mae Kampong for a night. We hung out with children in the village and were invited to dinner party at night. In the morning of the second day, we went to the temple and offered food and flowers to monks and participated in morning praying ritual. Villagers in Mae Kampong were very friendly and were welcoming to tourists and homestay program participants. The most interesting part of the village was that it was self-sustainable village with its own banking system. Villagers take turn in homestay program and the other economic activity and divide the profit evenly. Certain percentage of benefit will go into the village bank and would be used for the management and welfare system of the village.

Interviewing Ayu Teacher and Mong’s Family (Sep. 10th)

Professor Chen, Mr. Suzuki and I have been to Payap University to meet Ayu teacher. Mrs. Ayu is a representative figure of stateless people in Thailand. As a musician and teacher, she has contributed to Thai society and music industry. However, since her parents were Karen who escaped from the ethnic cleansing of Myanmar government, she has never had a nationality.

She had various struggles throughout her life, including traveling out of Chiang Mai Province and not being able to sign documents for her daughter as a legal guardian. Experts say that Mrs. Ayu is one of the most difficult complicated cases of statelessness. Many experts and scholars are making their efforts to help her acquire Thai nationality. Mrs. Ayu said that although Thai nationality does not mean that much to her, it would make her life much easier if she gets to have one.

After that, we made our way to Mong’s home. Mong is well known in Japan as an ‘paper airplane boy.’ When he was 10 years old, he became a paper airplane champion in Thailand and was requested to come to Japan to attend the world competition. Sadly, it was impossible for him to go abroad because he was a stateless. His parents were immigrant workers from Myanmar and Mong has never been officially registered. However, Thai government has made an exceptional decision to let Mong go to Japan. Through this, he acknowledged people around the world about the statelessness issue.

What amazed me the most was the fact that Mong never gave up on his dream and is still pursuing it up until these days. He is now working as a drone driver, helping the special shooting team. Using his drone, he takes pictures and videos from the sky. He is sending certain amount of money to his family every month, but the parents are saving up everything, without spending a penny. “We can’t spend it. We are going to give him back when he gets older,” Mong’s parents said. The boy who was admiring the sky is living in his dream.

Mirror Foundation, Chiang Rai (Sep. 11th-12th)

Mirror Foundation is located in rural area in Chiang Rai. It is currently supporting Mountain People and local children’s education. Head staff Mrs. Sakura gave us lecture about the Mountain People and stateless people of Chiang Rai area. Mirror Foundation is helping Mountain People and stateless refugees to acquire Thai nationality by funding them and providing legal counseling.

Next morning, we went to the village to meet boy name Apa. Apa is ethnically “Aka,” but stateless. He has been discriminated in various ways throughout his life, but the biggest incident that happened to him was a car accident few years ago. Although he was a victim, legal system did not provide him with any protection and he had to pay unbelievably high medical fees since he did not have a Thai nationality. He is still suffering of aftereffects from the accident. Yet, he was very strong-minded and believed that the accident was meant to be—that it was all God’s plan to make him grow as a person. I could see that religion has become a large part of his identity and life.

Mirror Foundation is currently supporting him to acquire Thai citizenship. Apa said that he want Thai nationality so that he could be more mobile and work in the other countries. I was touched by how devoted staffs and volunteer workers were at Mirror Foundation, and also by how Apa has overcome his personal crisis.

Symposium at Thammasat University (Sep. 13th)

The symposium “the situation, law as and policies frameworks to deal with the challenges that stateless and nationalityless persons, migrants and aliens face in the current decade: a comparative study of Thailand and Japan” was held in Thammasat University. Many experts in the field and stateless themselves have participated to the symposium. Thai scholars gave presentations regarding the current stateless and nationalityless issues of Thailand. Professor Chen gave a presentation regarding current situation of Japan, including specific case studies. I gave a presentation as a member of Stateless Network Youth, which was mainly about Stateless Network Youth’s activities and my personal experiences and thoughts regarding the issue.

【イベントのご案内】2016年10月15日 「難民・国籍・アイデンティティ」無国籍ネットワークトークイベント

近年、シリア難民をはじめとする多くの難民・強制移民の移動により、特にヨーロッパ諸国による難民の受け入れと国境管理や排斥運動など問題が大きく報道されるようになりました。難民の人道的な受け入れと、難民・移民の統合、国民と国家の関係、ナショナリティとナショナル・アイデンティティの問題が注目されています。

日本も70年代後半からベトナム戦争から逃れる人たちを難民として受け入れ、それ以降もミャンマーや他の国から難民を受け入れ続けてきました。数こそ多くはありませんが難民の長期滞在と定住化、さらに帰化も徐々に進んでおり、もはや難民の社会統合は他国の問題ではなくなっています。そこで、今回のイベントでは難民と国民国家との関係、国籍問題、そして受け入れ側の国民国家における社会統合、国籍、ナショナル・アイデンティティについて考えたいと思っています。

今回は二つのセッションに分けて行います。第一部では池辺利奈さんが「在日ロヒンギャのアイデンティティの変容」について報告し、第二部はワークショップという形で皆さんと一緒に国民国家、国籍、ナショナル・アイデンティティについてともに考えたいと思っています。

 

日時:2016年10月15日(土)14:00 – 16:00

場所:早稲田キャンパス 169-8050 新宿区西早稲田1-6-1 アクセス

11号間508号室 キャンパスマップ

 

第一部 研究報告

報告者: 池辺利奈

タイトル:在日ロヒンギャのアイデンティティの変容

要旨:修士論文テーマである「在日ロヒンギャのアイデンティティの変容」について報告します。本研究では、日本に暮らすロヒンギャ難民の個人の背景事情を質的に捉え、彼らの民族的アイデンティティの形成過程を辿ります。これまでの移民・難民のアイデンティティ研究では、難民は移民の下位概念として捉えられ、Phinney(1991)の民族的アイデンティティ発達理論が一般的に広く支持されてきました。しかしながら難民は、迫害経験や祖国からの脱出や繰り返される国家間移動など独自の「難民経験」有し、それゆえ難民は、より複雑なアイデンティティ形成プロセスを経験する可能性も推察されます。そこで本報告では彼らの独自のコンテクストを考慮した時にどのような理論が彼らの民族的アイデンティティを説明し得るのか、協力者の語りに注目した質的調査を通して検討します。

 

第二部 ワークショップ・グループディスカッション

モデレーター: マキンタヤ スティーブン

タイトル:難民と国籍とアイデンティティについて国民国家とナショナリティについて考える

 

国民国家の形成と、難民・無国籍問題は切り離して考えることはできない。つまり、国家のメンバーとされると国民とそれ以外の人々について考える必要があるでしょう。自由と民主主義が謳われている近代国民国家における国家と国民の関係とはどういったものでしょうか。それはどうあるべきなのでしょうか。国籍を与えられる条件とは何か。移民や難民はまず受け入れ国に同化してから国籍が与えられるべきなのか、それとも国籍を与えられてから徐々に統合されるべきなのでしょうか。難民、無国籍者に視点を当てながら、国民国家のあり方とその課題について考えます。

 

 

報告者:池辺利奈(いけべ りな)

国際基督教大学大学院修士課程修了。

大学院では心理学的側面から在住外国人について研究中。

無国籍ネットワーク運営委員

 

ワークショップ司会:Stephen McIntyre (スティーブン・マキンタヤ)

オーストラリア人、日本生まれ

一橋大学社会学研究科大学院修士課程在学中

難民受け入れ政策、無国籍と国籍剥奪の問題、難民・庇護申請者自らの権利獲得に向けての能動的な活動等について研究

無国籍ネットワーク運営委員

 

【イベントレポート】2016年8月30日 無国籍児童支援のための研修@名古屋市児童福祉センター

「名古屋市児童福祉センターで、無国籍児童支援のための研修を実施しました」

  無国籍ネットワークは、2016年8月30日の午後、名古屋市の児童福祉センターで、「無国籍児童への支援」というテーマで研修を実施しました。参加者は合計51名で、会場は満席になりました。半数以上が、区役所の女性・子どもの相談担当職員と保健所の職員でした。

名古屋市中央児童相談所の児童福祉司、大野由香里氏(右)と無国籍ネットワーク理事三谷純子
名古屋市中央児童相談所の児童福祉司、大野由香里氏(右)と無国籍ネットワーク理事三谷純子

この研修は、名古屋市中央児童相談所の児童福祉司、大野由香里氏から、無国籍ネットワークへ法律相談が寄せられたことをきっかけに、実現しました。行政の現場では、緊急対応や、日々の忙しさに追われ、国籍のことは、後回しになりがちです。けれども、国籍に関する問題の多くは、解決までに、複雑な手続きが必要で、長い時間もかかります。子ども自身も国籍に関する状況について十分に理解できるよう、周囲が助けることは、本人の将来設計のためにも重要です。退所間際になって慌てないように、先ず、担当者が、無国籍に関する基本的な知識を得、早期に取り組む意欲を高めることを目標に、研修をすることになりました。

大野由香里氏の挨拶のあと、無国籍ネットワークの理事の三谷純子が、国際編として、無国籍の歴史的な背景、定義、発生の原因や現状、国際社会の取り組みや課題について説明しました。次に、代表の陳天璽が、日本編として、無戸籍と無国籍の違い、在留資格と国籍の認定の関係に基づく無国籍者の類型、婚姻や帰化との関係や、無国籍児の人権について話しました。

%e4%bc%9a%e5%a0%b4引き続き、無国籍状態のまま日本で生まれ育った一人の大学生が、自分の経験や考えを語りました。無国籍ネットワークの奨学金や法律支援を受けている学生です。在留資格は持っていますが、国籍国と考えられる国で出生登録がされていないため、パスポートはありません。国籍に関する問題のため、高校の海外への修学旅行に参加できなかったことや、大学進学後のアパート探しに苦労したこと、自分が希望していた携帯の会社から契約を断られたこと、何かの手続きのたびに、同じ説明を繰り返し、何度も往復し、時間がかかり、心の負担も大きいこと、役所で担当者を決めてもらい少し楽になったこと、日本で生まれ育っているのに、日本語の読み書きはできるのかと聞かれる気持ち、周囲の友達に事情を打ち明けるのは簡単ではなく、相手も理解するのが容易ではないこと、海外旅行の話になると友達の輪に入りにくいこと、問題が解決しないまま何年も過ぎていて、将来への不安もあるけれど、どうせ自分はと思わずに積極的に役目を引き受けて前に出るようにしていること、大学での学びの違いを実感しているので、他の同じような子にも進学を諦めないでほしいことなどを、一つ一つ語りました。また、頑張ってと周囲の人が励ましてくれるのは嬉しいけれど、自分のことなのに、十分に説明されないまま、書類にサインだけするように言われてきたのが辛かった、本当のことが知りたいという気持ちも話してくれました。見知らぬ多くの人の前で、自分の経験や気持ちを正直に話すのには、勇気が必要です。今回は、同じような問題を抱える子どものために役に立てばという気持ちから、参加してくれました。参加者からの研修後のコメントには、「国籍について悩んでいる人がいることを知りびっくりした」、「社会的に自立していく上での困難さがよく分かった」、「このような思いをさせないように気を付けたい」というような反応もありました。

櫻井謙至行政書士によるケース検討
櫻井謙至行政書士によるケース検討

休憩を挟み、質疑応答のあと、無国籍ネットワークの設立当初に関与し、名古屋で開業している行政書士の櫻井謙至氏が、実際のケースについて検討を行いました。参加者が担当している他のケースについての質問にも答えました。個人情報開示請求により、外国人の親についての日本側の記録を確認する方法、強制認知を用いて日本国籍を確認する方法など、実務に役立つ情報の説明もありました。無国籍の解決には、その国の法律だけでなく、実情を踏まえた粘り強い対応や、工夫が必要になることがよくあります。研修終了後も、経験豊富な櫻井氏に質問したい人が後を絶ちませんでした。

参加者のうち41人から、無国籍ネットワークからのアンケートへの回答を得ました。「この研修の内容は、あなたが知りたかったことに合っていましたか?」という質問には、「非常に合っていた」が6人、「かなりよく合っていた」が17人、「普通」が17人、「あまりあっていなかった」が1人でした。「この研修の難易度は?」には、「ちょうど良かった」が9人、「やや難しかった」が30人、「難しすぎた」が2人でした。「この研修の満足度は?」には、「非常に満足」が8人、「かなり満足」が17人、「普通」が12人、「やや不満」が3人、「とても不満」が3人でした。「とても不満」と答えた人たちの理由は、よくわかりませんでした。この3人のコメントを読むと、「無国籍は、奥深く難しいと感じた」という感想はありましたが、「今までに学んだことがない内容だったため、新しい見方や考え方を学習することができた」「今後も研修に参加したい」「具体的な事例について話し合いたい」と述べており、「知りたかったことに合っていましたか」という質問には全員が「かなりよく合っていた」と答え、難易度は「やや難しかった」が2名、「ちょうどよかった」が1名でした。

また、別の5人からは、職員研修報告のフォーマットでの回答をいただきました。「講義内容が理解できましたか?」と「業務に活用できる内容でしたか?」いう二つの質問には、10点満点で10点が2名、8点が1名、6点が1名、4点が1名でした。

両方のアンケートのコメントには、「いろいろ考える良い機会になった」、「新しい知識を得ることができた」、「時間が足りなかった」、「具体的なケースの検討を通してもっと学びたい」、「研修を継続してほしい」という声が多くありました。国民として認められているのか調査をせずに、日本での書類には国籍が記載されていることに驚いたと複数の人が述べていました。在留資格と国籍を分けて考える必要性、無国籍と無戸籍の違い、日本で在留カード上無国籍と記載されることのメリットとデメリットを初めて知った人も少なくなかったようです。「無国籍は、難しいというより複雑」、「今までなんとなく、自分が無国籍に悪いイメージを持っていたのは無知によるものだったと気がついた」、「支援側と当事者の権力関係の話にはっとした」、「国籍って何だろうと改めて考えさせられた」、」等の感想も寄せられました。研修後の感想として、大野氏が、「難しい内容であったれども、今後取り組んでいくべき課題だと大半の参加者が受け止めていて、うれしかった」と述べたように、当初の目的は達成できたようです。

%e5%90%8d%e5%8f%a4%e5%b1%8b%e5%85%90%e7%9b%b8研修をした側としては、区役所の担当者の平均的な知識のレベルやニーズについて、実感を持って把握することができました。今後、同様な対象者に研修を実施していく際に、役立てていきたいと考えています。国際法や国際的な取り組みを知ることができてよかったという声もありましたが、今回の参加者の多くは、むしろ、目の前の実際のケースの解決に役立つ実務的なノウハウに強い関心を持っていました。研修の時間は限られているので、参加者の知識のレベルや関心に合わせ、内容を厳選し、時間配分を考えることは大切です。実際のケースを検討するには、当事者の了解を取る必要もあります。

無国籍ネットワークは、限られた人数がボランティアで活動している団体なので、自分たちが直接できることには限界があります。けれども、今回の研修を通して、児童相談所と地元の行政書士の先生の繋がりが生まれ、大野氏は、当事者の大学生にピア・カウンセラーのような立場で子どもに関与する機会を作ることを考えて下さっています。このような、協力の輪を、今後も少しずつ広げていきたいと考えています。

2016年10月5日

無国籍ネットワーク理事 三谷純子

【イベントレポート】2016年9月7日〜13日 タイスタディツアー

2016年9月7日〜13日にタイスタディツアーが開催されました。

本ツアーは、無国籍ネットワーク会員である立教大学社会学部准教授 石井香世子氏が企画・準備をを担当され、立教大学社会学部石井ゼミ、東京大学東洋文化研究所 池本研究室との合同企画として、開催されました。

現地での様子をツアーに参加された鈴木崇仁さんがまとめて下さったので、ご紹介いたします。

 

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させていただき、無国籍の人々に対する法律相談の様

子を見学しました。そこでは、どのようにすれば国籍

を取得できるようになるかを相談していました。みな

さん、真剣な様子で互いの話を聞いていました。タイ

人であることは思ったよりも様々な方法で証明できる

ことが分かりました。

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ても広いので、大学内の人々はバイクやバ

スなどで移動していました。ここでは無

籍にするセミナーが開かれ、日本とタイ

の無国籍問題を研究している者同士で親交

を深めました。

 

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きました。終始、和やかな雰囲気の中でインタビュー

が行われ、今までの人生で経験したことをお話しして

いただきました。無国籍ということが障害になった経

験もあったそうです。無国籍の方の生の声を聴くという

貴重な体験をすることができました。

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聞きしました。インタビューはこの方の自宅で行われ、

お水を出してくれるなど、親切な対応をしていただき

ました。タイに来るまでの過酷な体験の話や、今現在

の生活の様子をお話しいただきました。また、家の中

でインタビューが行われたので、実際の暮らしぶりを

体感できる貴重な機会となりました。

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Thanmmasat大学のランパーンキャンパスで

無国籍に関するシンポジウムが開かれました。

ここではタイ国内において無国籍問題に取

組んでいる多くの人々が出席しました。各団

体からプレゼンテーションが行われ、現在の

無国籍の状況を知ることができました。

鈴木 崇仁

【イベントのご案内】グレッグ・コンスタンティン氏 写真展@玉川学園

グレッグ・コンスタンティン氏の写真展「NOWHERE PEOPLE: THE WORLD’S STATELESS 考えてみてください 国籍がないことを ー 世界の無国籍者たち」が、玉川学園にて開催されますので、ご案内いたします。

詳細はこちら

<開催期間>
2016年10月7日(金)、8日(土)、12日(水)、13日(木)、14日(金) ※一般入場可

<会場>
玉川学園購買部ギャラリー (10:00~17:00、14日は15:00まで)
アクセス

※写真展のポスターはこちら

主催    : 玉川学園・玉川大学
協力    : 国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所

みなさま、是非ご来場下さい。

【イベントのご案内】2016年10月10日 11th UNHCR難民映画祭 「無国籍〜ワタシの国はどこですか」上映

第11回UNHCR難民映画祭にて、無国籍ネットワーク代表の陳天璽が出演しているドキュメンタリー「無国籍〜ワタシの国はどこですか」が上映されますので、ご案内いたします。

上映後、映画に出演されているグェンティホンハウさんと、代表 陳天璽によるトークを予定しています。

是非お越し下さい!

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無国籍 〜ワタシの国はどこですか

監督:玄真行
制作:NHK、東京ビデオセンター
日本 / 2009年 / 89分 / ドキュメンタリー
言語:日本語

<上映スケジュール>
2016年10月10日(月)19:00開始
<会場>
イタリア文化会館(東京)アクセス

※当日は1時間前より会場にて入場整理券(先着順)が配布されます。

お問い合わせ:映画祭専用フリーダイヤル0120-972-189(平日10時~18時)

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【イベントレポート】2016年7月3日「第2回 無国籍について基礎から学ぶ」無国籍ネットワーク・トークイベント

OLYMPUS DIGITAL CAMERA本年度第2回のトークイベント(2016年7月3日)では、「日本における国会審議に見る無国籍:自由権規約をめぐる議論を通して」、「中央アジア・タジキスタンにおける無国籍問題」と題した発表が行われ、20人が参加しました。

前半は秋山肇運営委員が、日本の国籍法において、無国籍の予防という観点から自由権規約を中心とした国際条約と比較し、国際法が日本の国籍法にどのような影響を与え、ま、過去の国会においてどのような議論がなされていたかを話しました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA後半は元UNHCR職員の小川雅代氏においでいただき、中央アジア、特にタジキスタンにおける無国籍問題についてとても分かりやすく説明していただきました。中央アジアで無国籍になる主な原因は国家継承に寄るものです。旧ソビエト連邦の崩壊後、例えば、タジキスタンとウズベキスタンの国境地域で移動した人々には、法律の衝突、行政手続きの問題、情報の欠如などによって無国籍になってしまった人が多いとのことでした。田舎でも、次第に身分証明を要求されるようになり、子どもの就学にも問題が出てきました。貧しい農村部では、出稼ぎ収入に頼って生活している家族も少なくありません。パスポートは、出稼ぎに行くには、なくてはならない物になっています。無国籍を予防し、既存の無国籍状況を改善するためには、政府が無国籍を決める基準をしっかりと定め、無国籍者の数を先ず把握することが大事だということがわかりました。

出席者へのアンケートでは、法と国籍の関係性の難しさを実感したという感想や、旧ソ連における無国籍者の状況について学ぶことができ、さらに知りたくなったという感想が寄せられました。

 

無国籍ネットワークユース 金 叡珍

【イベントレポート】2016年6月29日「第1回 無国籍について基礎から学ぶ」無国籍ネットワーク・トークイベント

今年、無国籍ネットワーク運営委員会は数名の新しいメンバーを迎えました。また、早稲田大学の学生を中心に2年前に設立された無国籍ネットワークユースの活躍の場も広がっています。そこで、基礎から無国籍についてしっかり学ぶため、ご関心のある皆さまにもご参加いただき、トークイベントを開催していくことにしました。

本年度第1回目(2016年6月29日)は「無国籍と国籍法」、「日本における無国籍少数民族ロヒンギャの実態」の二つをテーマに取り上げました。平日夜にもかかわらず、18名が早稲田大学に集まりました。

 

「無国籍と国際法」では、無国籍ネットワークの運営委員に就任したばかりの秋山肇が、国際法と国内法の違い、条約と慣習法の違い、という基礎から説明を始めました。更に、無国籍の定義や、二つの無国籍に関する国際条約の特徴について詳しく解説し、それから無国籍に関係する他の国際条約や国連高等弁務官事務所の役割について簡単に触れると、35分はあっという間に過ぎました。質問が次々にでました。「無国籍者の地位に関する条約」で定められている権利が定着の度合いにより異なるという説明に対し、その定着の度合いの基準とは何か。国家にとって無国籍に関する国際条約を締結するメリットとは。質問への答えを含め、詳しい情報は、秋山が調査を手伝い、翻訳も担当した新垣修著『無国籍条約と日本の国内法』にも記されていますが、難しいと敬遠しがちな法律の要点をわかりやすく解説してもらい、皆、確かな一歩を踏み出せたようです。

 

休憩後、「日本における無国籍少数民族ロヒンギャの実態」について、池辺利奈から、群馬県館林でのインタビュー調査に基づく報告を聞きました。池辺は、2015年から無国籍ネットワークの運営委員として会員管理を担当しています。池辺の報告は、無国籍であることや、ロヒンギャであること、日本での暮らし等についての当事者の見解に焦点を当てたものです。極限られた人数を対象にした予備調査の結果なので、一般化はできませんが、ミャンマーを出る前には、ロヒンギャであることを隠し、恥ずかしく思っていた人が、国境を渡り、自分たちの状況への理解を深め、ロヒンギャであることに誇りを持つようになったという変化や、子どもたちへのロヒンギャの文化継承への努力と日本社会適応への積極的な姿勢、また、彼らが抱える問題等が説明されました。調査手法や、子どもの服装や食べ物等についての質問が続きました。仮放免についての質問には、参加者の方が、ご自身の支援経験をシェアしてくださいました。

 

出席者へのアンケートでは、「日本でも理解を深めていくことが大事だ」等の感想が寄せられました。無国籍ネットワークは、国際社会や国家の定めた枠組みの中での法的支援と共に、アイデンティティや帰化等に悩む人の心に寄り添い、法律だけでは解決できない当事者の気持ちも大切にしています。無国籍について様々な視点から学ぶトークイベントを今後も実施していきます。

 

三谷純子(無国籍ネットワーク理事)東京、2016年7月6日

グレッグ・コンスタンティン氏講演:立教大学社会学部 2016年5月30日

rikkyo1 「小さな両手に握られた、1冊のノート。この写真は、今日わたしが皆さんにお見せする全ての写真の中で、もっとも重要な1枚です」――その不思議な言葉に、誰もが首を傾げました。砂漠地帯を歩く、見るからに極貧に打ちひしがれた女性の写真。暗い部屋のなか、僅かに差し込む日光に照らし出される虚ろな眼差し…。これまで映し出された写真は、そのどれもが生きる希望を奪われ、「生きながらにして亡霊と同じ存在」である無国籍者の生き様を、これでもかと訴えかけていたからです。

一息ついて、先生は説明を始めました。「この小さな両手の持ち主である少年は、家の奥から粗末なノートを持ちだしてきて、最後の1ページをめくって、私に見せたのです。一生懸命に。そこには--そう、この写真に写されているページです。その少年の父親が亡くなる直前、最後の気力を振り絞って書いた、全ての彼の子どもたちの名前と生年月日が書いてありました。父親が書き残したこの手書きの名前と生年月日のリストだけが、この少年とその兄弟が持っている、唯一の生まれてきた証なのです。これ以外には何ひとつ、この世の中に身分証明を持たない子どもたちに、父親が残した唯一の宝物が、このノートなのでした。」

Constantine先生の講演は、ただ画像があるからというだけでなく、ひとつの画像が現れるたびに、まずその背景にある個人的な無国籍者としての経験が語られました。そして次に、なぜそうした経験をしなければならない人が生まれたのかという、地域的・歴史的な文脈が説明されました。そして最後に、なぜConstantine先生がその写真を撮ったのか、その意図が述べられるのです。最初から最後まで、プロジェクターに写真が1枚現れるごとに、教室全体の沈黙が深くなっていく講演でした。

ご講演の最後には、とても時間が足りないほど多くの質問が出ました。聴き手の我々にとって、いちばん印象的だったのは、「どうして先生の写真は、いつも白黒写真なのですか」という学生からの質問に対する先生の答えだったかもしれません。「今の時代、カラーの写真は便利にいくらでも取ることができるけれど。人々の印象に残るのは、昔ながらの、シンプルな白黒写真だと思うから」。もしかすると先生自身の生き様が、その言葉に重なるのかもしれません。インターネットで情報を何でも得られる便利な時代と人々が言う今このときに、世界の各地に足を運び、人々と会話して、自分の目と耳と心で理解しようと努力している、その姿に。

rikkyo2 そして最後に。Statelesss Network YouthのTimさん、Maryさんのお2人の通訳がなければ、この講演会は成功しませんでした。お2人とも--とくに昼食も抜きで大活躍してくれたTimさん、どうもありがとうございました。

石井 香世子 立教大学社会学部准教授

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