無国籍ネットワークユース写真展2019年報告書

写真展2019年報告書

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写真展責任者:早稲田大学政治経済学部政治学科2年 倉田怜於

1.はじめに

(文責:倉田)

昨年末、私たち無国籍ネットワークユース(以下SNY)は、NPO法人無国籍ネットワークとの共催で写真展「Us」及び講演会を開催しました。写真展の開催期間は2019年12月10日〜17日の計7日間(15日は休館)、場所は早稲田大学ワセダギャラリー(27号館地下1階)にて、講演会は14日14:00〜16:00に早稲田大学3号館502教室にて実施しました。

写真展は2016年、2018年にも実施しており、SNYの一年の活動の中でも重要な活動の一つとなっております。今年も2019 年9月末ごろから準備を始め、展示する写真の決定や開催施設を確保、学内外での広報など開催に向けての計画を進めてまいりました。さらに、これまでにない初めての試みとして講演会を実施し、これまでご縁のあった数多くの方々の中から特に講演していただきたい方をこちらでお選びし、協議の末2名の方に登壇していただく運びとなりました。

そしてその準備が功を奏してか、写真展・講演会ともに本当にたくさんの方にご来場いただき、盛況の中、最終日を迎えることができました。具体的な数字は次章以降に掲載しますが、写真展への来場者数は7日間で合計200名を超え、講演会にも70名以上の参加者がいらっしゃいました。

「無国籍者」の認知度向上を第一目標として掲げている弊団体にとって、多くの方々に足をお運びいただき、写真をみて心で何かを感じたり、話を聞いて自分なりに意見を持ったりといった機会に触れていただけることは大きな喜びです。今回の運営の中で至らない点は多々あったと思いますが、いただいたご意見や激励の言葉を糧に、ご来場いただいたみなさま一人ひとりにとって有益な場を提供できるような活動をこれからも続けてまいりたいと思います。今後とも末長くよろしくお願い申し上げます。

以下では、写真展「Us」、講演会、広報活動に関しての報告を掲載します。お読みいただければ幸いです。なお、本件に関しましてご意見やご不明な点がございましたら、stateless.youth@gmail.comまでご連絡ください。(返信までお時間をいただく場合がございます。あらかじめご了承ください。)

 

2.写真展「Us」について

(文責:倉田)

昨年の写真展ではプロの写真家の方2名の写真を展示いたしましたが、本年の写真展では現役大学生2名の写真を展示しました。ただし被写体は本年も世界最大の無国籍者の集団とされているロヒンギャであり、今年は現役大学生らしく写真のメッセージ性やこだわりを前面に出した展示を目指しました。彼らの取材力や行動力はかねてから聞き及んでおり感銘を受けていたためご依頼したわけですが、大学生の活動家にとって取材したことを形として世に出すことは難しく、そのお手伝いをしていただいた面もあります。

そしてその2名は、城内ジョースケさんと鶴颯人さんです。城内さんは早稲田大学の4年生であり、2018年3月にロヒンギャの人々と出会ったことをきっかけにその時に感じたという不条理への疑問から何度も現地を訪れて取材などを行っている方です。鶴さんは立命館大学の3年生で、今回は京都からわざわざお越しいただきました。2018年春にミャンマーにあるロヒンギャの村を訪問したことを機

にロヒンギャ問題の取材を始め、インターネット記事を書くなど執筆活動も行っている方です。お二人はそれぞれの取材で訪れていたミャンマーで連絡を取って会うほどの仲だそうで、準備の段階でも仲のいいお二人だからこそ為し得るお互いのこだわりの詰まった展示方法を話し合っていただけたため、主催者側としても安心して仕事をご一緒することができました。

展示した写真について簡単にご紹介します。ロヒンギャはミャンマー・バングラディシュを中心に世界各地に分布しているのですが、今回はお二人がそれぞれ訪れたことのあるミャンマーのミャウーとシットウェーやバングラデシュのクトゥパロン、バルカリの各難民キャンプ、マレーシアと日本のロヒンギャコミュニティで撮影された写真を展示しました。どの写真も現地の方とのコミュニケーションなしには撮影できないような臨場感あふれるものばかりですが、ミャンマーの写真は現在は政情が不安定なため入ることすら困難な国内避難民キャンプで撮られたもので本当に貴重な写真が並びました。

写真展のタイトルは「Us」でした。「難民」はただ「かわいそうな人々」か、異なる境遇の人々を他者化していないだろうか、という写真家の方々の思いを「Us(私たち)」という題名に込めました。さらにこの気持ちを実際に形として表現しようと、いくつかの工夫を施しました。1つ目はキャプションをあえて目に見える形で展示しないという工夫です。題名や撮影者の名前と場所という最低限の情報のみを掲載し、具体的な写真の説明は展示しませんでした。写真展や美術館・博物館にいらっしゃる方の多くは展示物の脇にあるキャプションを手がかりにそのものを理解し解釈しようとするのではないでしょうか。音声ガイドというツールが衰退せず、むしろ有名アナウンサーなどを起用する投資のされ方は需要の高さを物語っているように思います。しかしこのプロセスでは先に与えられた情報の中でしか解釈ができず、自分で自由に見ること、自由に解釈することを放棄してしまっている可能性があります。私たちもロヒンギャ問題という理解が難しいテーマを扱っているからこそ先入観を排除した状態で写真を見ていただき、目の前の写真から何を感じ、何を思ったかを大事にしていただきたいと考え、文字でのキャプションの展示を行いませんでした。ただ、その写真をとった人がどのような気持ちを込めたかを伝えたい面も一方であります。そこで写真家2名の提案で「QRコード」を代わりに展示し、それを読み取ることで込められた思いやその写真の文脈をインターネット上で読むことができるようにしました。インターネット内で読めるため、展示しきれなかった関連する写真や写真の中の人物が話していたことなど惜しみなく掲載していただきました。写真展から出た後も、ふとある写真が思い出されたときは自分のスマートフォン上で閲覧履歴から思い返せることも狙いの一つであります。

先ほど来場者の方に自分で自由に見て考えていただきたいという意図を説明しましたが、私たちとしては実際どのようなことを考えられたのか気になるところでもあります。またパッと思いついた事柄を文字化することで自分の考えとしてより昇華できるというのも事実で、来場者の方々にその場を提供しようと考えました。そこで誕生したのが、みんなが写真展の感想を自由に書けるコーナーでした。これが2つ目の工夫です。コーナーの近くに付箋紙を用意し、写真展に来て感じたことを自由に書いていただくだけの場です。正直、どれくらいの方に書いていただけるだろうかと不安でしたが、69名もの方の意見をいただくことができました。寄せられた意見には実に様々な感想が見られ、QRコード方式で展示してよかったと実感できる結果でした。

そのほか、そもそもロヒンギャ問題とは何か、そして私たちが活動の主眼としている「無国籍」とは何かがわかるようなリーフレットを作成し入り口で来ていただいた方全員にお渡ししました。このリーフレットも各方面の方から好評をいただき、現在NPO法人無国籍ネットワークのHP上に掲載することを検討している段階です。

最後になりますが、各日程でお越しいただいた方の数を以下にまとめます。本当に多くの方に来ていただき写真を見て思考を巡らせていただけたことに感謝すると同時に、この数字を活動への応援と捉えこれからの活動に邁進していくことをお約束して本章を締め括ります。

[Table]

3.講演会について

(写真)左から根本教授、ゾーさん、SNY髙橋
 (写真)左から根本教授、ゾーさん、SNY髙橋

(文責:髙橋)

3.1 開催の経緯

無国籍ネットワークユース(以下SNY)がこれまで開催してきた写真展では、多くの方々に問題を知ってもらうことができたと考えています。しかしながら、せっかく興味を持って来ていただいたのに写真展会場への数分の滞在で終わらせてしまうのはもったいないのではないかという反省がありました。これまでの企画の背景には、社会的に関心の薄い無国籍の問題に触れ、身近に感じてもらうためにはどのような方法が効果的なのかという問題意識がありました。そこで、気軽に足を運びやすく、また写真という視覚的な情報を通じて学生から社会人まで広範な対象にメッセージを届けることが期待できる企画として写真展を開催していました。しかし、無国籍やロヒンギャの問題は極めて複雑な構造をしており、写真展では伝えきれないことが多分にあります。そのため、今年度は写真展の期間に合わせて、より深く学ぶ機会として、ロヒンギャ問題の専門家お二人による講演会の開催を決定しました。

3.2 講演者の紹介

無国籍やロヒンギャの問題についての専門家は国内にはそれほど多くありませんが、この道の第一人者とも呼ぶべきお二人が講演を快くお引き受けくださいました。上智大学総合グローバル学部教授の根本敬教授と在日ビルマロヒンギャ協会のゾーミントゥ(Zaw Min Htut)さんです。根本先生は、ビルマの近現代史研究を専門にされており、ロヒンギャ問題の歴史的経緯について各所で研究成果を発表されています。講演テーマは「ロヒンギャ問題の歴史的背景をたどる」でした。ゾーミントゥさんは2002年にロヒンギャとして日本で初めて難民認定されるという経歴を持ち、現在まで国内外のロヒンギャの状況改善に取り組んでこられました。講演テーマは「国内外のロヒンギャ難民の状況〜無国籍の視座から〜」でした。

3.3 講演会当日

席が埋まるかという不安がありましたが、広報に力をいれたこともあってか、当日は予想をはるかに超える人数(約70名)の方にご来場いただきました。特に大学生など若い参加者が多かったことは、無国籍・ロヒンギャ問題の長期的な解決を見据えて幅広い層の方に知ってもらおうという本企画の趣旨からはとても喜ばしいことでした。

当日はまず、根本先生にロヒンギャ問題の歴史的背景をお話いただき、少しの休憩を挟んだ後、当事者であるゾーさんに自身の実体験も交えた貴重なお話をしていただきました。その後行った来場者からの質疑応答も含め、実りある学びの場を提供することができたと思います。

3.4 来場者からのご意見

当日は来場者全員にアンケート用紙を配布し、計29名からの回答を得ました。回答内容について以下簡単にまとめます。まず、講演会全体の感想について、「1. 大変良かった」、「2. 良かった」、「3. あまり良くなかった」、「4. 良くなかった」の4段階で質問し、1.と答えた方が21名、2.と答えた方が8名でした。高評価について、二人の後援者にお話しいただく2部構成を理由に挙げている方が多く見受けられました。具体的には、専門的な知見を得た上で当事者の話を聞くことができた、また知識のない状態からも一から学ぶことができた、などというご意見をいただきました。

3.5 総括

今回の講演会は私たちにとって初めての試みでしたが、講演者お二人、そして他のSNYメンバーの協力に支えられ、大変多くの方にご来場いただき、また関心を持っていただくことができたと考えています。今後もこの問題について学びたいので、引き続き活動をしてほしい、この他の問題にも取り組んでほしいなど、大変励みになるご感想をいただきました。私たちSNYは、今年度の講演会開催の経験を活かし、無国籍問題の解決のために、さらなる活動の場を探求し切り開いていくことを目指します。

4. 広報活動について

学内掲示用ポスター
学内掲示用ポスター
立て看板用ポスター
立て看板用ポスター

(文責:北村、編集:倉田)

今回の写真展・講演会開催にあたっては主に以下の媒体を通して広報活動を実施しました。つきましては関係者各位、協力していただいた方々にこの場を借りて御礼申し上げます。

  • 大学内立て看板(協力:早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター)
  • 大学内掲示ポスター(カラー版、白黒版)
  • 早稲田大学27号館ショーウィンドウでの展示・掲示(写真提供:狩新那生助さん)
  • 大学内置きビラ
  • SNY公式インスタグラム
  • SNY公式Facebook
  • 授業に出向いて宣伝活動
  • NPO法人無国籍ネットワークを介してのメールマガジンやメーリングリストでの広報
  • これまでに関わりのあった方々へのメール

ポスターデザインは、今回展示をする写真家2名にそれぞれの思う印象的な写真を提供していただきそれらを大々的に扱いつつ、シンプルでインパクトのある仕上がりにしました(下図参照)。その結果、特に学内立て看板が印象的で来場してくださった方も少なくありませんでした。また我々が一部の来場者を対象に行ったアンケートで、授業での宣伝で来てくださった方が多いことが判明しており、活動やエピソードを直接伝えることの重要性を実感しました。貴重な授業の時間を割いて宣伝に協力していただいた各先生方に改めて感謝いたします。

5. メンバーからの感想

早稲田大学1年 小川いぶき

写真展「Us」。展示しているのは主にロヒンギャの写真であるのに、なぜ題名が「私たち」を意味する「Us」なのだろうと感じた人も少なくないと思います。しかし、この名前に隠された理由は展示されている全ての写真を見た帰路の途中で、じわじわと感じられたのではないでしょうか。この写真展では写真の下部にある従来の脚注ではなく、QRコードを読み取って一枚一枚の写真の実情を読み取ってもらうという、新しいスタイルを開拓しています。学生にもっとロヒンギャを身近に感じて欲しいという趣旨に沿っているし、実際にスマートフォンを片手に写真を眺める学生たちは画像と文字で情報を得ることで、より鮮明にそこに広がる過酷な難民たちの状況を理解することができたと思います。国籍を持っている「私たち」の生活は当たり前ではないこと、そしてそんな「私たち」が彼らに何ができるのか、一人でも多くの学生に考えてもらえていたら嬉しいです。

早稲田大学1年 栗本紗綾香

今回の写真展が、私にとって写真展の準備や運営に携わる初めての機会でした。その中で様々なことを学ぶことができたと思っています。まず、今回の写真展の写真を撮っていらっしゃる写真家のお二方から沢山お話を伺うことができました。私と同じ大学生が、無国籍の問題を抱えている地域へ行き写真家として活動しているということから、私とは次元が違う方なのだろうと思っていました。しかし、お話ししてみて、ちょっとしたきっかけからこのような活動をされていることが分かり、お二方の行動力や情熱に感銘を受けると同時に、私でも何か無国籍を知ってもらうためにできることがもっとあるのではないかと思いました。そして、写真の背景を詳しく知ったことでより無国籍について深く考えることができました。写真の人物へのインタビューによって、一言で無国籍者と括るのではなく、彼らにも私たちと同じように辛いことや幸せなことがあるのだということを知りました。支援する側は、一人一人の事情や生活にもっと目を向けて行かなくてはならないのではないかと感じました。自分とは関係のないもの、と感じてしまいがちな問題ではありますが、今回の写真展を通じて実感できたのではないかと思います。

早稲田大学1年 原尻伊織

我々は机上の空論をしがちだ。新聞やテレビ、学校の授業で「難民」「無国籍」という言葉を耳にする。UNHCRの論文や様々な文献を読む。難民について“知る“。

写真展を開催して、私たちが”知っている”と思っていたことが本当の意味での「知る」ではなかったことに気づかされた。現場について何も知らないのである。

私たちはどこか「難民って大変そうだよね」「無国籍って大変そうだよね」と彼らのことを無意識に下に見る。私たちには関係ない話だけど、そういう環境に置かれている人がいることは知っている、くらいに思っているかもしれない。何故そう考えてしまうのだろう。それは”知る”ことしかしてないからだ。

写真展に展示されている写真をみると、ロヒンギャで起こっている出来事に対する認識が「難民」の物語ではなく、写真の中にいる1人1人の人間、私たちと同じ時代に生まれた同じ人間が、生まれた場所が違うというだけで苦しんでいる物語へと変わる。

それが本当の意味での「知る」ではないだろうか。はじめは”知る”から何事も始まる。私たち学生は”知る”のまま、踏み止まりがちだ。”知る”から「知る」になるには、現場を見ることが大切である。写真展での写真は現場そのものを写し出す。自分たちは、現場に行くことは難しいかもしれない。しかし写真で現場を感じられるのなら感じていきたい。「知って」いきたいと思うのだ。

10周年記念と出版記念ついて9月14日にTBSラジオで放送予定!!

8月24日(土)に開催した「無国籍ネットワーク設立10周年・出版記念シンポジウム 〜 無国籍の人々と歩んだ10年とこれから」の様子がラジオで放送されます。
放送予定日: 9月14日(土)
放送局: TBSラジオ
放送時間: 8:20〜
番組名:「蓮見孝之まとめて!土曜日」の中の「人権TODAY」コーナー
https://www.tbsradio.jp/horio-human/

時間がある方は是非聞いてください!

A program about the symposium commemorating the 10th anniversary of Stateless Network and the publication of the book by Dr. Junpei Yamamura that was held on August 24 will be broadcast on TBS Radio.
Radio Station: TBS Radio
Date: September 14, from around 8:20 AM
Program: “Jinken Today – Human Rights Today”
Website of the station: https://www.tbsradio.jp/horio-human/
Please enjoy the program!

無国籍の人々と歩んだ10年とこれから ―無国籍ネットワーク10周年記念・出版記念シンポジウム―

プログラム

1.無国籍ネットワークのあゆみ

2.出版記念と連続セミナーのまとめとして、山村医師と当事者との対談。

山村淳平・陳天璽共著『移民がやってきた−アジアの少数民族、日本での物語』

3.基調講演 新垣修教授(ICU)『無国籍のこれまでとこれから』

4.無国籍の当事者、専門家、ユースなどによるラウンドテーブル

 

場所:早稲田大学11号館710教室 MAP

時間:15:00~17:00

※イベントの後に懇親会を開催する予定。詳細は当日口頭で説明する。

予約:フォーム

Poster PDF

山村淳平・陳天璽共著『移民がやってきた−アジアの少数民族、日本での物語』出版記念について 出版社リンク)

https://i1.wp.com/www.genjin.jp//images/book/472815.jpg?resize=281%2C402

山村淳平医師の連続セミナーの内容をまとめ、山村医師と無国籍ネットワークとが協力して編集した著書の出版記念。山村先生の10年以上に及ぶ日本に暮らす難民申請者や強制移動を経験したアジアの様々な国から逃れて来日した人たちに寄り添って支援してきた実践から出来た信頼関係がこのプロジェクトのベースにある。その関係から無国籍ネットワークと共に2年にわたって連続セミナーの形でトークイベントを行い、その内容をまとめたものだ。さらに、日本の難民申請制度事態に関するデータとそれについての分析と解説を加えている。今の日本に滞在する移民(強制移民や庇護希望者/難民、無国籍者)が直面する様々な問題について知るための重要文献の一つとなるだろう。さらに、多くの場合、日本に庇護を求めて来た人が出身国では少数民族や宗教的マイノリティーであることに着目することで、一つの民族や宗教的アイデンティティを中心とする国民国家のナショナル・アイデンティティに関するイデオロギーがマイノリティーの集合的なアイデンティティを抑圧し、迫害し、かれらが国外へと避難するように追い詰める状況を取り上げている。「移民がやってきた」理由は、多くの場合、本国で少数民族やマイノリティーとして生きることが許されず、迫害の対象となり、日本に庇護を求めることになったからなのである。

 

無国籍ネットワーク10周年記念について

陳天璽(ララさん)が10年前に知り合いや他の無国籍の当事者、弁護士等に声をかけて発足した無国籍ネットワーク。小さなボランティア団体として、地道にしかし誠実に活動を続けてきた。無国籍の方に寄り添い、その経験について聞くというのを活動の中心としてきた。その経験に基づいた情報をトークイベントなどを通して発信することで、無国籍者の状況やかれらが抱える問題を引き起こす日本の制度上の問題を指摘してきた。また、法律相談を通して、無国籍者の抱える法的な問題について話を聞き、速やかに弁護士と当事者とを繋げて個々の問題の解決に向けて貢献してきた。また、弁護士、学者、活動家と連携して無国籍と関連する問題(難民申請者、仮放免、収容)について情報発信と議論ができる場を設けてきた。特に、当事者自身の語りの場を設けることに務めてきた。ボランティア団体としてずっと活動を続けてこられたのは、当事者と活動を支えてくれた会員や賛助会員、メーリスに登録された方々を始めとするすべての人のおかげでもある。その応援と支援に対しても感謝の気持ちを込めて今回の10周年記念を開催したい。

 

 

 

 

 

 

第14回 すてねとカフェ大阪 報告 

第14回 すてねとカフェin大阪を開催しました。

無国籍ネットワークでは、2019年3月16日に「すてねとカフェin大阪」を開催しました。毎回ご参加下さるメンバーの方や初めて足を運んで下さった方など、15名ほどの参加がありました。

前半は、このたび無国籍ネットワークが新たに交流を始めた「NPOみぎわ」の松原宏樹さんより特別養子縁組についてお話いただきました。「NPOみぎわ」さんは、奈良県を拠点とした第二種社会福祉事業特定非営利活動法人で、生みの親がどうしても育てることのできない赤ちゃんを特別養子縁組して育ての親に託したり、養子縁組が困難な障害を持った赤ちゃんを引き取り、家庭に近い形で育てるといった主に「子どもの命を救う」活動をされています。その他にホスピスケアの理念に沿って病や障がいがあっても最期まで寄り添う家「ホームホスピスみぎわ」も運営されています。

まず、昨今の児童虐待ニュースを例に挙げながら多くの幼い命が奪われている現状が示され、児童相談所の対応への批判が高まっているのはもっともであるが、非正規雇用が多くを占める児童相談所の雇用形態で急増する相談への対応が不可能である点について説明がありました。また虐待による死亡の時期については、出生0日目が圧倒的に多くなっている、つまり、出産したもののそのまま亡くなるという形の虐待が多いとの説明がありました。さらに年間約20万人の中絶、1日に465人、3分に1人の赤ちゃんが中絶されているという具体的な数字が述べられ、実際にはこれ以上の赤ちゃんが中絶されているはずであるとのお話がありました。中絶という名の「合法的殺人」が大きな社会的な問題になることなく受け入れられている現代日本の姿がグラフ等とともに示されました。また、昨今の技術進歩により、出生前の検査が可能になった反面、異常が見つかった場合の90%以上が中絶を選択しているとの指摘もありました。

無事に生まれてきても実親と暮らせない子どもの環境は、施設擁護と家庭擁護に分類されます。施設擁護には、原則0〜2歳の乳児院と原則3〜18歳の児童養護施設などがあり、家庭擁護には、里親、ファミリーホーム、養子縁組があります。最後の養子縁組のなかに普通養子縁組と特別養子縁組があり、「NPOみぎわ」さんは後者の特別養子縁組をサポートされています。特別養子縁組は、6歳未満の子どもの福祉を目的としてつくられた制度で、血のつながりのない育ての親と子どもが法律上、実の親子になり、親権は実親から養親へと移ります。日本では社会的養護を必要とする子どもの大半は乳児院や児童養護施設などにとどまっており、里親と一緒に暮らす割合が、オーストラリア(2014〜15年)では91.5%、英国(2015年)および米国(2014年)では75%に対し、日本ではわずか15%と際立って低い点が明らかにされました。2018年10月時点の日本では、生みの親のもとで育つことのできない子どもの数が約46,000人で、そのうち15%が里親家族、85%に当たる約39,000人が乳児院・児童養護施設で暮らし、わずか0.8%が特別養子縁組で家庭に引き取られているという状況です。無国籍ネットワークではこれまで家庭のない無国籍の子どもなどに関する相談はあまり寄せられていませんが、私たちが知らないだけかもしれません。多様化する現代社会において、今後このような課題が出てきても不思議ではありません。今回「NPOみぎわ」さんのお声がけにより始まった交流を通して、救える命は何としても守りたいという松原さんの強い思いが伝わってきます。国籍の有無にかかわらず重要な問題ですが、無国籍者にとっては法制度が壁となって消えている命があるかもしれません。無国籍ネットワークとしてもこのつながりを大切に育み、命を救うお手伝いをしていきたいと思います。

 後半は当ネットワークの運営委員の丁章さんより「ニュージーランドVISA取得顛末記2018」と題したお話がありました。在日コリアン3世、「無国籍の朝鮮籍」である丁さんは、2018年11月30日〜12月4日にかけてニュージーランドで開催された、在日コリアンをテーマにしたシンポジウムに詩人として招聘されました。「無国籍の朝鮮籍」の丁さんは朝鮮民主主義人民共和国のパスポートも大韓民国のパスポートも持っていません。日本が発行する「再入国許可書」を旅券代わりにして日本を出入国しています。これまで中国、台湾、シンガポール、オーストラリアに入国したことがあります。そして、今回初めてのニュージーランド渡航を予定したのですが、出発当日の空港で、発給されたと思っていたビザが下りていないとわかり、予約していた飛行機に乗れなかったという「顛末」のお話でした。特に今回は大学生になったお嬢様とのふたり旅ということもあり、楽しみにされていたニュージーランド訪問でしたが、お嬢様の初海外一人旅という別の形での「顛末」となってしまいました。

今回丁さんにビザが発給されなかったのは、ニュージーランド移民局から送られきた郵便をビザ発給の知らせだと丁さんが誤認したのが原因という形になってしまっていますが、丁さんは、ニュージーランド移民局のメールの伝え方がとても紛らわしいもので、はじめから発給を拒むつもりではなかったのかとの疑いをもっています。ニュージーランドのシンポジウムには朝鮮民主主義人民共和国のパスポートを持った在日朝鮮籍の研究者の方も参加されましたが、その方のビザが下りたのは出発当日だったそうです。丁さんがそれをニュージーランド移民局の嫌がらせではないかと考えているのも不思議ではありません。移民国家として多様な共生社会づくりを率先している寛容な国というイメージがありますが、今回の朝鮮籍者への対応をみると「ニュージーランド、おまえもか」という丁さんの強い思いが伝わってきました。

参加者からは寛容な国というイメージ自体が間違いであって、大陸的な大らかさを有するオーストラリアのあり方と比べてニュージーランドは部外者に対して閉鎖的な側面があるとの意見が出されました。豊かな自然やフレンドリーな対人関係などがニュージーランドの寛容さであると認識してしまうのも無理のないことですが、出入国管理の実務などでは閉鎖的な面があるのかもしれません。また、グローバル化が強まる一方でナショナルレベルでの線引きが強化されているのはニュージーランドだけに見られる傾向とは言い切れません。変動する現代社会の越境について改めて考える機会を与えていただいたお話でした。

(無国籍ネットワーク運営委員 梶村美紀)

写真展:「われわれは無国籍にされた」—国境のロヒンギャー ”We are made Stateless”: Rohingya on the Border

Stateless Network Youthが主催する写真展 「われわれは無国籍にされた」—国境のロヒンギャー、”We are made Stateless”: Rohingya on the Border
ビルマとバングラデシュの国境地域のバングラデシュ側に逃れたロヒンギャ・ムスリムやビルマ国内で避難しているロヒンギャの状況を写真に収めた二人の写真家の写真を展示します。ギャラリーは14日から21日までです(16日は休みなのでご注意ください)。また、日本に在住するロヒンギャが現地の人に対して行っている支援活動についても紹介させていただきます。

 


The Stateless Network is proud to announce that Stateless Network Youth will be holding a photo exhibition featuring two Japanese photographers who have covered the situation of the Rohingya who have fled across the border with Bangladesh, or who remain internally displaced within the country. The exhibition will be from the 14th until the 21st of December (the gallery will be closed on the 16th). There will also be information on the activities of Rohingya living in Japan who are working to assist those on the border.

 

【二人の写真家のプロフィール】

狩新那 生助(かりにいな しょうすけ)

通信社カメラマンを経てフリーランスに。アジアを中心に難民など困苦の中にある人々の姿を追っている。写真集に「ナフ川の向こうに~バングラデシュで生き抜くロヒンギャ民族~」(柘植書房新社刊)、「クトゥパロンの涙~難民キャンプで生き抜くロヒンギャ民族~」(柘植書房新社刊)がある。
https://ja-jp.facebook.com/shosukekalinina/

 

新畑 克也 Katsuya Shimbata

1979年広島県呉市生まれ。東京都在住。
2010年に初めて訪れたミャンマーに魅了され、同国へ幾度も通い旅先での人々との出逢いを写真に収め始める。2015年より西部ラカイン州で多くの困難を抱えながら生きるロヒンギャの集落や難民キャンプを訪れ彼らの暮らしを見つめ続ける
HP: http://www.katsuyashimbata.com/
FB: https://www.facebook.com/kman57move

場所:

早稲田大学 27号館B1ワセダギャラリー

〒169-0051 東京都新宿区西早稲田1丁目6−1

1 Chome-6-1 Nishiwaseda, Shinjuku-ku, Tōkyō-to 169-0051

https://goo.gl/maps/fGxeKVimPLE2

参加:無料

無国籍ネットワークセミナー11月17日「一世と二世のあいだ」報告

無国籍ネットワークセミナー11月17日

「一世と二世のあいだ」報告

©McIntyre/無国籍ネットネットワーク

2018年11月17日、早稲田大学にて 連続セミナー第8回「一世と二世のあいだ」を開催しました。2017年から2年間、8回の連続セミナーを開催し、さまざまな無国籍・難民の当事者の方の話を聞き、日本に住むマイノリティーと難民についての理解を深めました。今回はビルマ出身のカチン族のマリップさんと娘さんのセンジャトイさんに、 日本に渡って来た一世と日本で生まれ育った二世、両方の話を聞くことができました。

©McIntyre/無国籍ネットネットワーク

マリップさんはミャンマー政府の迫害を避けるために日本に渡って来ました。カチン族とミャンマー政府の紛争は1961年に始まり、まだ続いています。数千人の一般人が命を失い、10万人以上の避難民が発生しました。[1]日本に来てからもカチンを含めた少数民族への支援を続けていたマリップさんは、2012年、NPO法人PEACEを設立しました。PEACEでは日本語・英語・ミャンマー語の教育とミャンマー国内における国際協力事業に取り組んでいます。「日本に渡ってきた人たちが一番苦労するのが日本語です。それを見て、日本語教室を開きました。PEACEで日本語を学んで、就職したり、日本語能力試験に受かったりします。」とマリップさんは言語教育の重要性を強調しました。そんなマリップさんの姿を見て、娘のセンジャトイさんもPEACEの活動に取り組んでいます。お母さんがいつも周りの人を助けているのを見て、自分も人に役に立てる仕事をしたいと思ったセンジャトイさんは、今大学で国際関係を勉強しています。

©McIntyre/無国籍ネットネットワーク

センジャトイさんは、自分の名前が他の人と違ってカタカナということで、いじめられたことがあります。日本で生まれ育ち、一度も本国のビルマで暮らしたことがないのにも関わらず、外国人のような扱いをされ、一時期「通名」を使っていた時期もあったようです。ところがある日、在日コリアンが植民地時代に民族名を奪われ、通名を使っていたという話を聞き、自分のアイデンティティーにプライドを持ち、本名に戻ることに決めました。「見た目で判断せずに、心を開いて人を接して欲しいです。」センジャトイさんは日本にマイノリティーとして暮らしている人々を代弁しました。

今回のセミナーには、無国籍ネットワーク・ユースのメンバーを含め、たくさんの学生が参加しました。同世代のセンジャトイさんからの話から刺激を受けた学生たちとセンジャトイさんの対話は、休み時間が終わるまで続きました。「今後どういう仕事をしたいのか」の質問に対して、センジャトイさんは「まだ決めてはないが、ビルマにいるカチンの人々の役にたつ仕事をしたい」と答えました。マリップさんもPEACEや他の活動を通じて、日本国内・ビルマ現地の少数民族に出来るだけのサポートをしていきたいと付け加えました。特定非営利活動法人PEACE:https://www.npopeacejapan.com

©McIntyre/無国籍ネットネットワーク

8回の連続セミナーを通して、普段の生活の中だったら出会えないかもしれない難民や無国籍の当事者の本国と日本での経験を

©McIntyre/無国籍ネットネットワーク

聞くことができました。山村先生との対談の形で当事者の人生を振り返り、来日を決めた理由と来日してから苦労した経験、難民申請のプロセスや家族の話など、色んなことを語りました。そこで一番印象的だったのは、難民として来日し生活が苦しかった当事者の方々が、それにも関わらず周りの人を助けようとしたところでした。ずっと難民として認められず、子供が無国籍状態のエルマスさんは、日本語が分からないクルド人のために通訳をしていました。(第3回, 2017年9月30日)そして医療分野の仕事をしているネパール系日本人(親がチベット難民)の塩田ドルジさんは、日本語が分からない患者のため、毎週新宿区のクリニックで英語とチベット語で診療をしていました。(第7回, 2018年11月17日)

 

「難民の背景を持つ人はいつまでも頼り続ける」という偏見を克服し、日本という新しい居場所で暮らしていく方々に出会えたセミナーでした。

 

写真©McIntyre/無国籍ネットネットワーク

[1] Beech, Hannah. “Inside the Kachin War Against Burma | Time.” Time, November 21, 2014. http://time.com/3598969/kachin-independence-army-kia-burma-myanmar-laiza/.

 

2018年9月22日(土)無国籍ネットワーク 連続セミナー第7回「親の文化を伝えたい」

無国籍ネットワークよりイベントのご案内です。

9月22日にトークイベントを行います。

今回のゲストはチベット・ネパール系日本人のドルジさんです。

みなさま、ふるってご参加くださいませ。

以下、詳細になります。

 

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【日時】2018年9月22日(土) 15:00~17:00

【費用】無料

【会場】早稲田大学  11号館 819教室

(アクセスマップ>>  https://goo.gl/maps/APSkFS6Wz7t

【懇親会】セミナー終了後の17:30より懇親会(参加費1500円程度)を行います。

場所はターリー屋西早稲田店(http://thali-ya.com/shop/nisiwaseda.html)です。

 

お申し込みはこちらから↓

https://goo.gl/forms/PgYHZuuNGSzinVKx2

 

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連続セミナーについて

アジアでは、たくさんの少数民族が国家のなかに組みこまれ、多民族国家として成立しています。少数民族は国籍が与えられないことがあり、かりに国籍を有していても二級市民あつかいされがちです。日本にも、このような少数民族がくらしています。

ほとんどが難民として日本にのがれて来ましたが、日本政府は難民としてみとめていません。本国と同様、日本においてもまた彼/彼女らに居場所を見つけるのは容易ではなく、少数派、あるいは無国籍者として生きていかざるをえません。とはいっても、逆境をバネにした力強い姿が、彼/彼女らのなかにみいだされます。

連続セミナーでは、本国と日本での経験を話していただきます。少数派の語りをとおして、国籍や民族について共に考え、同時に、普段は気が付かない日本社会の一面や彼/彼女らの活力を感じてみませんか?

 

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2018年8月4日李節子教授によるセミナー「在日外国人の健康支援:誰一人取り残さない母子保健のために」のレポート

李節子教授によるセミナー「在日外国人の健康支援:誰一人取り残さない母子保健のために」

——-東京、2018年8月、三谷純子(無国籍ネットワーク理事)

 

無国籍ネットワークは、在日外国人の健康支援について、40年間、研究や支援をなさってきた長崎県立大学大学院の李節子教授によるセミナーを、2018年8月4日、東京ボランティア市民活動センターで開催しました。

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「健康に生きる権利は、世界中の誰もが持っている基本的人権です。日本で暮らす外国人にもその権利はあると、私は、40年間、あらゆる機会に、どんな人にも、訴え続けてきました」と李先生は、情熱的に話し始めました。健康への権利は、『WHO憲章』や、いくつもの国際宣言に謳われ、『世界人権規約』、『児童の権利に関する条約』等にも記されています。また、国際社会全体が2030年までの達成を目指して促進中の『持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDG)』にも、全ての人の健康的な生活の確保と福祉の推進や、ジェンダーの平等の下での、性と生殖に関する健康への権利の実現が含まれています。SDGは、「誰ひとり取り残さない」ことを掲げているので、難民や移民、無国籍者も、在留資格の有無に関わりなく、SDGの対象に含まれると考えられます。「グローバル化等の影響により、日本でも、在日外国人が増えていますが、忘れられがちなのは、在外邦人も増加しているという事実です。SDGを達成するには、国籍や法的地位とは無関係に、今ここにいる全ての人の健康への権利を、お互い様という気持ちで、各国で守りあうことが不可欠です」と、李教授は指摘しました。

 

日本で暮らす外国人の保健医療に関しては、言葉の壁、心の壁、制度の壁により、様々な問題が発生しています。特に、在留カードを持っていない非正規滞在の妊産婦とその子どもの健康への権利を、誰がどのように守るのかは大きな課題です。非正規滞在の発覚を恐れ、出産前検診も受けない出産は、時に母子の命に関わります。感染症は、国籍や在留資格とは無関係に拡大します。予防接種をしていない子どもの増加は、本人だけでなく、社会全体のリスクも高めます。しかし、日本語がよくわからず、自国と異なる制度を十分に活用できない外国人は少なくありません。

 

非正規在留者も含めた外国人も、日本の児童福祉法や母子保健法により、母子手帳の交付や、妊婦検診、子どもへの予防接種等は、受けられるはずです。2009年の参議院法務委員会で、在留カードの有無に関わらず、予防接種や就学の案内等の行政上の便益を全ての外国人が引き続き享受できるよう、体制の整備に万全を期すことが決議されています。ところが、非正規在留者が子どものために勇気を出して自治体の窓口を訪れても、在留カードがなく、住民登録がないことを理由に、窓口担当者が、基礎的な母子保健制度の利用を認めないケースが各地で発生しています。また、非正規滞在者の医療費未払いに困った病院が、そのような人の受け入れを拒むこともあります。そこで、親の法的地位や、国籍、経済力により、子どもの健康への権利が大きく損なわれないよう、子どもが暮らしている社会全体で支える必要があります。

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勿論、保健医療の現場では、外国人の健康への権利を守る様々な取り組みもされてきました。セミナーでは、神奈川国際交流財団のご厚意で、当事者や医療関係者向けの多言語の資料が配布され、特定NPO法人シェアの紹介もされました。ただ、現場の取り組みは、広く共有されず、散逸しがちです。解決法も、相談先もわからず、困っている当事者や関係者も少なくありません。李教授が、編集・執筆し、杏林書院から出版されたばかりの『在日外国人の健康支援と医療通訳:誰一人とりのこさないために』という本には、関連する法律や制度の説明と共に、問題解決の事例が豊富に載っています。「この本は、多くの人達が、悪戦苦闘してきた長年の努力の集大成なんです。実際に役に立つ情報をたくさん、簡潔にまとめました。問題解決にも人材育成にも役立つ内容です。日本で暮らす外国人の健康支援体制を構築し、SDGが達成されるように、私も全力を尽くします」と教授は講演を締めくくりました。

 

セミナーには、酷暑の中、保健医療の現場で働く方々、在日外国人の支援の関係者、研究者、報道関係者、無国籍状態の人など、25名が参加しました。「看護師として、現場で外国人にどのように関わっていけばいいのか」という質問に対し、李教授は、「先ず、心を込めてケアをすることです。それから、一人で抱え込まずに、病院のケースワーカーやNPOと連携してください。」と答え、「支援する側は、自分がヒーローになろうとしていないか、かわいそうだからという上からの態度になっていないかに気を付け、当事者の目線に立ち、一緒に解決していくことを忘れないで。」と付け加えました。懇親会でも、参加者の様々な経験の共有が続きました。今後、日本で暮らす外国人が増加するなかで、重要な役割を担う医療通訳を適切な収入を得られる職業として確立する必要性や、行政が経費節約のため外国人対応を省略しないようにする必要性、現場の医療人の外国人対応への知識や能力の向上の必要性、家族形成や出産年齢の人が多い外国人労働者を労働力としてだけでなく、生活の場を共有する人として捉える必要性、当事者や医療関係者、行政、支援団体等が協力して、外国人の健康の権利を確保する体制を構築するための立法や財源の必要性も、話題になりました。

 

無国籍ネットワークのセミナーは、法律やアイデンティティに関する内容が多いのですが、今回の講演で、健康への権利と無国籍の関係について考えるための材料が増えました。

 

  • 李節子先生の新著『在日外国人の健康支援と医療通訳』杏林書院 2018はamazonでは、2700円で9月1日発売予定です。
  • かながわ国際交流財団が発行する多言語の資料は、www.kifjp.orgにあります。
  • シェアは、医療保健を中心とし、命を守る人を育てる活動を国内外で実施している特定非営利活動法人です。 http://share.or.jp/index.html

 

「2018年6月16日 児童養護施設における”無国籍”調査報告」のレポート

「2018年6月16日 児童養護施設における”無国籍”調査報告」のレポートです!
当日の様子・内容が書かれています。

「2017年 児童養護施設における外国につながる子どもと無国籍に関する実態調査」報告

2018年6月16日、早稲田大学にて、石井香世子教授(立教大学社会学部)による「2017年 児童養護施設における外国につながる子どもと無国籍に関する実態調査」と題した発表が行われました。

最初に、タイの山地民とともに生活しながら研究をされていた経験を、ご自身の写真も含めて紹介され、ご研究の中で無国籍の問題があることを認識し、無国籍についての調査を行うことになったという経緯をご紹介されました。次に無戸籍と無国籍といった、従来混乱しやすい概念について説明され、無戸籍者は親が日本国民であると考えられることが多いのに対して、無国籍者の親は日本国民でなく、どの市民権も行使できない方々を指すと説明されました。また、法の文言によって無国籍となるという狭い意味での無国籍に限らず、市民権を行使できない環境にいる人々を無国籍者と捉えていると説明されました。日本において無国籍が問題化しない理由は無国籍者の実態が知られていないことであると考えられるため、日本にいる無国籍者の実態の一部を明らかにすることを目的として、全国の児童養護施設にアンケート調査を行われました。

多忙な児童養護施設からのアンケートの回答率を上げるために、わかりやすい選択肢を用意することに努め、600の施設にアンケートを配布したところ、300の有効回答があったと紹介されました。国籍がない(かもしれない)と思われる子どもがいたことはあるか、もしくは現在いるか、との質問への回答からは、無国籍と思われる子どもが児童養護施設にいる割合にばらつきがあり、都道府県別の在留外国人の人数が多い県で必ずしも無国籍と思われる子どもの数が多いわけではないことが指摘されました。また、在留外国人の人数と児童養護施設における無国籍と思われる子どもの数には相関関係がないことも指摘されました。さらに、無国籍と思われる子について国籍取得に関する相談をしたことがあるか、という質問への回答からは、役場の戸籍課、法務局、弁護士に相談する事例が多い一方で、国籍取得率は児童相談所や弁護士に相談した際に高いことが指摘されました。

後の質疑応答では、実態調査の対象を、児童相談所でなく児童養護施設にした理由に関する質問が投げかけられ、児童相談所によるアンケートへの協力は困難であると考え、児童養護施設への調査を実施したと説明されました。無国籍者の実態を明らかにすることの困難さを認識するとともに、無国籍者の実態の一部が垣間見れる貴重な発表でした。

 

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無国籍ネットワーク運営委員 秋山 肇

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