【2019年東大写真展報告書】報告者;篠崎玲菜、編集:スティーブ・マキンタヤ、三谷純子 東大写真展報告書のPDF版はこちら
1.はじめに
無国籍ネットワークは、在日ビルマ・ロヒンギャ協会(BRAJ)、人間の安全保障学会(JAHSS)学生部会、特定非営利活動法人「人間の安全保障」フォーラム(HSF)と共に、東京大学大学院「持続的平和研究センター(RCSP)」の後援を受け、2019年11月16日(土)と17日(日)に、国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会(東京大学駒場キャンパス)で、写真展『われわれは無国籍にされたー国境のロヒンギャ“We are made Stateless”: Rohingya on the Border”』を開催しました。(諸団体についての詳しい説明は、報告書の最後を参照してください。) 両学会への参加者全員が頻繁に通る広い通路に展示したことにより、二日間で合計1,200名近くもの方々に、最近報道が減っているロヒンギャの写真38枚を改めてご覧いただくことができました。
2.東大での写真展の目的
今回の写真展の目的は、来場者に、バングラデシュの難民キャンプやビルマ(ミャンマー)の国内避難民キャンプで、悲惨な状況に置かれたロヒンギャの状況を伝えること、そして当該問題に関心がある様々な人々の間に交流の機会を創出することでした。
そのため、写真の展示に加え、写真展2日目には、在日ビルマ・ロヒンギャ協会(BRAJ)のメンバーや、写真を撮った狩新那生助氏・新畑克也氏を招いたトークセッションを3回開催しました。さらに、パンフレットの配布やパネルの設置を通して、共催・後援団体の活動も紹介しました。
3.写真展開催の経緯
この写真展自体は、3回目の開催でした。初回は、2018年12月に早稲田大学で、無国籍ネットワーク・ユースが、無国籍ネットワークの後援を受け、主に早稲田の学生に無国籍やロヒンギャについて知ってもらうことを目的に開催しました。2回目は、翌2019年6月に、群馬県館林市で、BRAJの協力を得て、無国籍ネットワークと無国籍ネットワーク・ユースが共催しました。館林市には、多くのロヒンギャが暮らしています。彼らの背景を、同じ地域で暮らす様々な人々にも、写真を通して感じていただくことができました。
この館林での写真展を、同地でロヒンギャの子どもたちを対象とした学習支援をしているHSF監事の原若葉先生がご覧になり、東大で開催する国際開発学会と人間の安全保障学会の合同学会でのサイドイベントとしての実施を、ご提案してくださったのです。東京大学大学院「人間の安全保障」プログラム(HSP)の教授でもあり、国際開発学会・人間の安全保障学会2019共催大会の事務局長の関谷雄一先生、そして同実行委員長である佐藤安信先生の御賛同を頂き、人間の安全保障学会(JAHSS)学生部会所属かつ、人間の安全保障フォーラム(HSF)理事兼事務局次長である山﨑真帆が、無国籍ネットワークやBRAJ等の意見を取りまとめ、プロポーザルを作成し、写真展の開催が両学会関係各位により、承認されました。
4.写真展の準備
館林に本部を構えるBRAJに保存していた写真のパネルは、原若葉先生が自ら運転し東大へ搬送してくださいました。また、東大からの必要経費の支給やポスター台座等の借用の調整にもご尽力いただきました。ポスターやリーフレットの準備、印刷、立て看板の制作、展示に必要な物の調達、ホーム・ページや、ソーシャル・メディアでの広報、リーフレットの準備、人員配置、関係諸団体との様々な調整等は、主に、無国籍ネットワークの運営委員のマキンタヤと篠崎が担当し、理事の三谷純子もサポートし、会計等に関しては、運営委員の麻生留美子、大島理恵、陳天璽代表も協力しました。設営・撤収では、重松尚先生やHSP事務室の松井たまき様にもお世話になりました。人間の安全保障学会学生部会の方々や学会の手伝いをしていたHSP所属学生をはじめとする学生の方々が、椅子や机の搬入等を助けてくださり、写真家お二人の意向に沿い、マキンタヤ、篠崎、三谷、無国籍ネットワーク・ユース(代表:高橋礼、中野響子、倉田怜於、小川いぶき、松田梨沙、栗本紗綾香)が手伝いました。
5.写真展の二日間
会場では、新畑氏が2017年と2018年、狩新那氏が2014年と2017年に、ミヤンマーやバングラデシュ、日本でも撮影した、合計約38枚の写真を展示しました。お二人は、終日在廊し、随時、来場になった方々に、直接写真の説明をしてくださり、ロヒンギャの人々が直面している実情を、より詳しく知る機会になりました。
HSFの学習支援活動等の説明や写真のパネルは、日本で育っているロヒンギャの子ども達についても知っていただく機会になりました。また、会場では、無国籍ネットワークの篠崎とマキンタヤが常駐し、HSF理事長の高須幸雄先生や前理事長の山下晋司先生、当時BRAJ代表のヤシン氏もいらしてくださいました。関係諸団体の資料等の配布や紹介や、ロヒンギャのための募金の管理もしました。
写真展二日目には、当事者の生の声を届ける場を作るために、トークセッションを3回実施し、各回約30-40分程度、20-30人の方が参加しました。トークをして頂いた、ロヒンギャ系日本人の長谷川健一さんと無国籍ネットワークの運営委員でもある長谷川留理華さんに心から感謝の拍手を送りたいと思います。お二人の胸を打つロヒンギャ同朋への想いと言葉なしには、この写真展は考えられませんでした。セッションに来場された方々は、一心にお話を聞いていました。特に印象的だったのは、ロヒンギャの子どもたちが取り残されてしまっていることへの懸念に関してでした。具体的には、教育の機会が避難先のキャンプや村にないために、その間、仕事も勉強もできずに未来が見いだせない状態であることを訴えていました。日本に住んでいる私たちができることは、無関心でいないこと、まずは問題を知るところから一つずつ積み重ね様々な立場の人々が協力することで、確実な問題の解決につなげることだと痛感しました。
さらに、トークセッションでは、写真家の狩新那氏と新畑氏にも、ロヒンギャの方々の写真を撮影しに行った経緯や、現場で接したロヒンギャの人々の等身大の暮らしを説明していただきました。参加者の感想の中で、非常に印象に残っているのは、「写真で見るのとニュースで聞くのと全然違って、臨場感があり、ロヒンギャの人々のまなざしに吸い込まれる」という声でした。改めて写真の持つ「伝える力」に驚かされました。
写真展をご覧になった方々から、別の場所での開催のお誘いを複数頂いています。この写真展が巡回展として、今後も様々な場所で続き、一刻も早い無国籍問題の広い認知とロヒンギャ問題の解決の一助となるよう、今回の実施で学んだ事も含め、写真展開催のマニュアルを作成し、よりスムースな開催を目指していきたいと思います。
無国籍ネットワークとしては、BRAJの方々といった当事者の方々に喜んでいただけたことが、とても嬉しく、励みになりました。今回は、アカデミックな場で、研究者や学生も含め、様々な年齢層・多様な所属の方々にロヒンギャ、そして無国籍者の問題について、写真を通して感じ、関心を深めていただけたという点で、大変意義深いものだったと考えています。
6.会計報告
この写真展をご覧になった方々から、合計4万2,901円をロヒンギャ方々のための募金として頂きました。この募金はBRAJに全額お渡しました。BRAJがバングラデシュの難民キャンプで支援している学校での活動に使われるそうです。無国籍ネットワークは、開催に必要な資金をHSFから11万5千円頂きました(なお、HSFへの協賛団体につき、後述8(1)参照)。購入物には、今後の活動に使える物も含まれています。大変感謝しており、今後の活動に役立てていく所存です。
7.謝辞
改めまして、この写真展を国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会(東京大学駒場キャンパス)で実現するにあたってご協力いただいた、共催団体の特定非営利活動法人「人間の安全保障」フォーラム(HSF)の理事長の高須幸雄先生と原若葉先生、人間の安全保障学会(JAHSS)学生部会所属であり、HSF理事兼事務局次長でもある山﨑真帆さんとメンバーの皆様、在日ビルマ・ロヒンギャ協会(BRAJ)と登壇してくださった長谷川健一様、写真家の狩新那氏・新畑氏、そして東京大学人間の安全保障プログラムの重松尚先生、松井たまき様、東京大学人間の安全保障学会学生部会、無国籍ネットワーク・ユース、後援の東京大学持続的平和研究センター(RCSP)、東京大学大学院「人間の安全保障」プログラムの運営教授でもあり、国際開発学会・人間の安全保障学会2019共催大会の事務局長の関谷雄一先生と実行委員長である佐藤安信先生に感謝申し上げます。
8.関係諸団体の御紹介
(1)共催団体;特定非営利活動法人「人間の安全保障フォーラム(HSF)」について
HSFでは、当時館林市に暮らしていたロヒンギャ女性の協力を得、2017年7月に、ロヒンギャの子どもたちを対象とした学習支援プロジェクトを立ちあげました。現在も館林市内の公民館において、隔週で学習支援活動を展開しており、各回数名から十数名の子ども(未就学児から中学生まで)の参加があります。彼らの多くは日本で生まれた日本語話者であり、日本の学校に通学し、日本語を用いて勉強しています。写真展では、こうしたHSFの活動や市内の子どもたちの様子等についてもパネルやパンフレットを通じて紹介しました。以下は、写真展のパンフレットに掲載したHSFの紹介になります。なお、今回の写真展の開催は、立正佼成会一食平和基金の助成により実施中の難民支援事業の一環として行いました。
設立目的
日本、アジア、アフリカその他の地域の持続的平和と持続的開発を追求し、移民や難民、災害などによる被災者をはじめしばしば脆弱な立場におかれる人々の基本的人権が尊重される社会を実現することを目指し、関連組織、企業、官公署、自治体、団体、ならびに個人と恊働・協力し、人間の安全保障推進事業を行う。
活動内容
・「日本の人間の安全保障」指標を作成する。
・日本国内に暮らす難民の子どもたちの学習支援活動を行う。
・東日本大震災に際しボランティア派遣コーディネータ事業を展開する。
・宮城県内の仮設住宅地において「こども未来館」を設置、運営する。
・研究、教育、文化に関するイベントを企画・運営する。
・その他、「人間の安全保障」を推進するための新規事業を企画立案・実施する。
人間の安全保障のための学習支援プロジェクト・館林市
群馬県館林市に暮らし、市内の学校に通うロヒンギャの子どもたち(未就学児から中学生)を対象として、2017年7月より学習支援活動を展開している。具体的には、市内の六郷公民館において、午前10時から12時まで隔週(第2、第4)土曜日に勉強会を開催しており、各回5名から15名程度の子供たちが参加している。なお、本プロジェクトは、東日本大震災の被災地域における学習支援活動(2011-2015)で培った経験・知見を活かし、現代の日本社会において脆弱な立場に置かれた人々を対象とした支援活動を行うことを目的としている。
(2)共催団体;在日ビルマ・ロヒンギャ協会BRAJについて
1980年代以降、日本に逃れてきたロヒンギャも徐々に増加しており、現在、250人から300人程度が国内に居住していると推定されます。そのほとんどが群馬県館林市に集住しています。多くが難民認定や在留特別許可を得た人やその家族ですが、就労資格がなく不安定な仮放免の状態である人もいます。在日ビルマ・ロヒンギャ協会(通称BRAJ)は日本とビルマ(ミャンマー)はビジネスなどにおいて重要なパートナーであることを踏まえ、日本政府、日本のメディア、日本人の学生、そして一般の日本人の方に対して、ミャンマーに一日も早く平和が訪れるようにビルマの政府に働きかけるよう呼びかけています。具体的には、ビルマ政府は国内のマイノリティーの権利を尊重し、ロヒンギャの国籍とアイデンティティを認めなければならないことを主張しています。以下は、写真展のパンフレットに掲載したBRAJの紹介になります。
はじめに
アウンサンスーチー氏(現在国家顧問)が1989年に軍事政権によって逮捕され、以降自宅軟禁されていたことに対し、われわれBRAJのメンバーはビルマ大使館の前で何度も彼女の釈放を呼びかける抗議行動を行いました。われわれBRAJは、ロヒンギャのための国際正義を達成し、今日の危機を解決するには以下のことを実現しなければならないと考えています。
- すべてのロヒンギャに国籍と共にそのアイデンティティを取り戻すこと。
- 帰国する全ての難民がその元の居住地に戻ること。
- 事実調査ミッション、NGO団体、国際メディア、そして国連平和維持軍がアラカン州に入ること。
- マイノリティーへの残虐行為やジェノサイドにかかわった者達をその犯罪について国際司法裁判所にかけること。
在日ビルマ・ロヒンギャ協会(BRAJ)の設立と活動について
1994年に日本に住む7人のロヒンギャによって在日ビルマ・ロヒンギャ協会が設立されました。今ではわれわれの団体には男性、女性、子どもを含めて300人近くのメンバーがいます。BRAJは日本に住むロヒンギャが日本の法律とルールを守ることを勧めてきました。また、ビルマで迫害を受けたために国を逃れて、日本で難民申請しているロヒンギャの支援も行ってきました。
ビルマ国内やバングラデッシュで苦しんでいるロヒンギャに対する支援
現在、BRAJはビルマ国内やバングラデシュで様々な困難に直面している人たちを支援しています。今年の初旬、BRAJはバングラデシュにある難民キャンプにロヒンギャの子どもたちのために学校を設立しました。学校には8人の先生と300人の生徒がいます。われわれの学校では、子どもたちは平和のために働くことを目指し、復讐しないようにと学んでいます。日本の皆様に対して、われわれと共にビルマに平和がくるように、一緒にロヒンギャや他のマイノリティーが直面している状況の改善に向けて協力していきましょう。
(3)後援団体;持続的平和研究センターについて
持続的平和研究センター(RCSP)は,東京大学大学院総合文化研究科のグローバル地域研究機構(Institute for Advanced Global Studies, IAGS)のもとで2010年4月に発足した持続的平和研究センター,持続的開発研究センター,アフリカ地域研究センターという3つの研究センターの一つです。どれもが、「人間の安全保障」に密接に関連したテーマを扱い、教育プログラムとしての「人間の安全保障」プログラムを研究拠点としています。中でも,持続的平和研究センターは,平和概念の再定義を含む,理論的研究,歴史的研究,世界各地の紛争現場におけるフィールド調査,アクションリサーチ,平和政策の批判的検討などの研究活動を行っています。実践的な研究や情報発信に努めており、代表的なプロジェクトは2010年から実施した「難民移民ドキュメンテーション・プロジェクト(The Project of Compilation and Documentation on Refugees and Migrants, CDR)です。
(4) 国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会について
国際開発学会&人間の安全保障学会2019共催大会では、難民の問題も主要なテーマとして扱われ、国境地域にある難民キャンプに暮らすロヒンギャ難民の姿を映し出した作品を展示することも学会の趣旨に良く合致していました。
執筆・写真撮影:無国籍ネットワーク、篠崎玲菜、編集:スティーブ・マキンタヤ、三谷純子