近年ビルマ(ミャンマー)のロヒンギャ・ムスリムがおかれた悲惨な状況は世界的に知られるようになった。しかし、ロヒンギャ難民は90年代初頭から、今に至るまで120人の主に男性が庇護希望者として来日し、難民認定申請している。実際に難民認定を受けているロヒンギャは18人、70人から80人は人道的配慮に基づく在留特別許可(以下、人道配慮)、20人弱の方は現在も難民申請中の状態である。その中には、10年以上日本に滞在しながら難民として認められず、特定活動、仮滞在、仮放免、収容と様々な法的地位と状況に置かれているロヒンギャもいる。特に仮放免者の場合はいつ収容されるか分からず、仕事も出来ず、保険にも入れない状態で日本社会の中では見えない存在となっている。呼び寄せられた家族や日本で生まれた子どもを含めて250人から280人ぐらいのロヒンギャが現在日本に在住しているといわれている。
このように大多数のロヒンギャの庇護希望者は日本に難民として認められなくとも人道配慮を与えられている。先進資本主義国家の中でも難民に厳しい日本政府とビルマの軍事政権との複雑な関係がこの状況にも影響しているといわれている。同時に、弁護士や日本の市民社会、他のロヒンギャ・ムスリムの力を借りて戦ってきたことが大きく影響したことが調査からわかった。在留資格が与えられ日本での暮らしも長くなるにつれて、ロヒンギャの中には帰化することを求める人が増えている。実際に2家族には帰化が認められている。同時に、調査を通して帰化を求めるロヒンギャはさらに多いことが分かった。帰化を強く求める気持ちは他のビルマ出身の難民やベトナム難民等と同様、自分と子どもの安定した将来を考えてのこともあるが、ロヒンギャがビルマから国籍を剥奪されたと言う経験から現在暮らしている日本に国民として受け入れられたい気持ちがさらに強いとも言える。しかし、いくつかの理由から帰化できないと考える人が多いことが今回の調査で分かった。この定住資格や永住権が与えられたロヒンギャが日本国民になれない状況を私は「無国籍の常態化」と呼んでいる。さらに、日本が難民認定あるいは人道配慮を与えていないロヒンギャは「無国籍の常態化」と基本的な権利を享受できない状況にある。今回の発表とディスカッションでは日本の制度がもたらすロヒンギャ・ムスリムの「無国籍の常態化」についてロヒンギャだけでなく日本の制度と他の在日外国人の状況とも関連付けてみなさまと一緒に考えたい。
講師のマキンタヤ スティーブン氏(Stephen P. McIntyre)は2018年に一橋大学大学院社会学研究科での修士課程を修了。2016年から2017にかけての調査で在日ロヒンギャ・ムスリムと日本の難民認定制度との関係を調べ、その内容を修士論文「国家の認めるアンビバレントな状態―無国籍化されたビルマ出身ロヒンギャ・ムスリムの日本での庇護申請」にまとめている。
日付:3月31日 14:00~16:00 (お茶を取りながらの懇親会を16:30から行う予定)
場所:早稲田11号館711号室 早稲田キャンパスマップweb 早稲田キャンパスマップpdf
人数確認のため参加希望の方は前日までにご連絡ください。懇親会に参加される方は特に事前に連絡するようよろしくお願いします。
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