今年、無国籍ネットワーク運営委員会は数名の新しいメンバーを迎えました。また、早稲田大学の学生を中心に2年前に設立された無国籍ネットワークユースの活躍の場も広がっています。そこで、基礎から無国籍についてしっかり学ぶため、ご関心のある皆さまにもご参加いただき、トークイベントを開催していくことにしました。
本年度第1回目(2016年6月29日)は「無国籍と国籍法」、「日本における無国籍少数民族ロヒンギャの実態」の二つをテーマに取り上げました。平日夜にもかかわらず、18名が早稲田大学に集まりました。
「無国籍と国際法」では、無国籍ネットワークの運営委員に就任したばかりの秋山肇が、国際法と国内法の違い、条約と慣習法の違い、という基礎から説明を始めました。更に、無国籍の定義や、二つの無国籍に関する国際条約の特徴について詳しく解説し、それから無国籍に関係する他の国際条約や国連高等弁務官事務所の役割について簡単に触れると、35分はあっという間に過ぎました。質問が次々にでました。「無国籍者の地位に関する条約」で定められている権利が定着の度合いにより異なるという説明に対し、その定着の度合いの基準とは何か。国家にとって無国籍に関する国際条約を締結するメリットとは。質問への答えを含め、詳しい情報は、秋山が調査を手伝い、翻訳も担当した新垣修著『無国籍条約と日本の国内法』にも記されていますが、難しいと敬遠しがちな法律の要点をわかりやすく解説してもらい、皆、確かな一歩を踏み出せたようです。
休憩後、「日本における無国籍少数民族ロヒンギャの実態」について、池辺利奈から、群馬県館林でのインタビュー調査に基づく報告を聞きました。池辺は、2015年から無国籍ネットワークの運営委員として会員管理を担当しています。池辺の報告は、無国籍であることや、ロヒンギャであること、日本での暮らし等についての当事者の見解に焦点を当てたものです。極限られた人数を対象にした予備調査の結果なので、一般化はできませんが、ミャンマーを出る前には、ロヒンギャであることを隠し、恥ずかしく思っていた人が、国境を渡り、自分たちの状況への理解を深め、ロヒンギャであることに誇りを持つようになったという変化や、子どもたちへのロヒンギャの文化継承への努力と日本社会適応への積極的な姿勢、また、彼らが抱える問題等が説明されました。調査手法や、子どもの服装や食べ物等についての質問が続きました。仮放免についての質問には、参加者の方が、ご自身の支援経験をシェアしてくださいました。
出席者へのアンケートでは、「日本でも理解を深めていくことが大事だ」等の感想が寄せられました。無国籍ネットワークは、国際社会や国家の定めた枠組みの中での法的支援と共に、アイデンティティや帰化等に悩む人の心に寄り添い、法律だけでは解決できない当事者の気持ちも大切にしています。無国籍について様々な視点から学ぶトークイベントを今後も実施していきます。
三谷純子(無国籍ネットワーク理事)東京、2016年7月6日